外資系金融マンの読書ブログ

外資系金融マンの読書ブログ。読んだら3倍考えるビジネス書評ブログ出張版。読書の要素はあまりない。

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That's how knowledge works. It builds up, like compound interest.

情報が欲しいなら、「聞く力」よりも知識を身につけるべき

阿川さんの「聞く力」を読んだ

聞く力

職業柄、人の話を聞くことが多いのでこの手の本はよく読む。阿川さんの「聞く力」は何年か前に読んだ本なのだが、久しぶりに読み直してみた。

聞く能力に関しての本としてはそこそこ有名な本である。

久しぶりに読んで感じたのは、ある程度あたりまえのことばかり書いてあって勉強にならないなということだった。数年前に読んだときは勉強になった気がするから、その分は私が成長したということになるのかもしれない。

聞く力だけで取材できる時代は終わったのでは?

新聞社の記者が取材をする場面を考える。聞く力が試される代表的な場面の1つではないかと思う。*1

このとき、「聞く力」とやらがあると多くの情報を聞き出せると考えるのはおかしいのではないかと感じている。

なぜなら、現在社会においては、そもそも無料の取材に応じることについて話し手には何のメリットもないからだ。

ブログや個人出版などが一般的ではなかった時代は、話さないことのメリットもなかったが今はそうではない。無料の取材に対して情報を提供するよりも、自分でブログやら本やらを書いたほうがいい。

つまり、かつての「黙っているか無料の取材に応じるか」の2択から「自分でマネタイズするか、無料の取材に応じるか」の2択になったのだ。これでは取材に応じるメリットがまるでない。

こういった場面においては、情報を獲得するために「聞く力」などは必要にならない。報酬を支払って聞き出したほうがいい。

そこから先の「聞く力」は、せいぜい気持ちよく話してもらえるように相槌に徹することくらいだろう。

そして、無料で取材しないと採算が取れないような情報なら発信しないほうがいい。メディアの読み手にとってもノイズでしかない。

報酬はもちろん現金だけではない

もちろん、報酬というのは現金だけではない。

企業などは取材を受けることで宣伝効果があるから、宣伝の分で報酬は足りる。

証券会社や運用会社のアナリストが上場企業のIRにインタビューをするときの構図と同じだ。アナリストに情報を提供することで新たな株主を獲得できる可能性があるから、アナリストからのヒアリングには積極的に応じるのがふつうだ。

一方で、「情報交換」によって聞き出せる内容も多い。人間は「恩義のルール*2」に縛られる生き物だから、情報を提供してもらうと自分も提供しなければならない気がしてくる。そんな気がしてこないのは、面の皮の厚い記者くらいだろう。

つまり、取材ではなく情報交換をすればいいのだ。相手から聞く時間が半分、相手の教える時間が半分。これでお互いにメリットがある形で聞き出すことができる。

金融業の中でも、インベストメント・バンキングの営業などはこれに近い。「最近の資本市場について情報共有をしたいのですが・・・」といって接近し、恩義のルールによって企業の動向を聞き出す。隙あらば資金調達の提案などを行うのだ。

証券会社のアナリストとIRとの関係性も同じである。IRは自社についてアナリストに情報提供しつつも、「ちなみに、われわれの競合の〇〇社は、市場からどのような評価を受けているのでしょうか」などと聞いて、自社の株式価値を向上させるためのヒントを得ようとする。

宣伝効果はともかく、情報交換という手法なら個人間でも使えるだろう。

報酬という聞く力を身につけるべき

優れた情報を聞き出すためには報酬を与えるべきこと、そして、報酬は必ずしも現金でなくてもいいということについて書いた。

特に、個人から情報を聞き出すのなら「取材」をせずに「情報交換」をすべきであるという点は強調したい。

さて、誰かから情報を聞き出すために必要なのは「聞く力」だろうか、それとも情報交換のときに提供できる「知識」などであろうか。

私は、聞く力などという無料で情報を聞き出すすべを身につけるよりは、自分から提供できる情報を少しでも増やしたほうが、長期的には聞く力が増すと考えている。

*1:本書は聞く力であって聞き出す力ではないのは承知しているが、現実に用いられるのは聞き出すときではないかと思われる

*2:人を動かすことについての名著「影響力の正体」より