外資系金融マンの読書ブログ

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作業員の過労死を受けて再確認すべきオリンピック開催の意義

オリンピック廃止を唱える人がいるが、それは容易ではないと思う

オリンピックは運動をとおした安全な代理戦争である

オリンピックは、国同士が争える場所を人為的かつ安全な手段で用意することで、戦争による死者を減らすことを狙う代理戦争である。という話もある。

代理戦争は他国に戦わせる戦争のことであるが、細かい表現はいまは置いておこう。

このような考えがどこからきているのかはよくわからなかったのだが、かなり昔から言われていることのようだ。

自国の勝利に一喜一憂する観衆も少なくないので、この考え方は納得感がある。

実際、招致合戦にせよなんにせよ、政治的争いを含んでいるという面は否定できないだろう。

オリンピックの経済効果で開催地のインフラなどが発展する

オリンピックを招致すると交通網が整備されるなどの経済効果があり、開催国の経済発展に役立つという論調も古くからあるようだ。

実際、日本に新幹線が開通したのは東京五輪の影響が大きいだろう。

しかし、この考え方には少し違和感がある。オリンピックが行われているのはすでに発展している国ばかりなのだ。

国名 開催回数
アメリカ 9
フランス 5
日本 4
ギリシャ 3
イギリス 3
イタリア 3
ドイツ(西ドイツを含む) 3
カナダ 3

発祥の地ギリシャが最多なわけでもなく、3回以上開催されているのはギリシャを除くとほとんどが世界で最も豊かな国々である。

これを見るに、経済発展のために開催するというよりは、先進国が利益を享受するために招致合戦を行っているという側面のほうが強いように思う。大義名分よりは私利私欲のほうが強そうだ。

開催地の発展のために行うなら、原則新興国で行い、先進国はODAを兼ねてお金だけ出せばよいのではないだろうか。

競技の発展とともに技術も発展する

オリンピックで勝つために極めて高度な研究開発競争が行われることはある。

ひと昔前の競泳で、「レーザーレーサー」という糸を使わずレーザーで焼き付けて作る水着が流行ったのだ。この水着を利用するかどうかで大きくタイムが異なるから、ミズノやアリーナをスポンサーにつけた選手すらスピード社の「レーザーレーサー」を着用した。

この一件が流体力学の発展・活用にわずかながら寄与したというのは間違っていないだろう。

有名どころでばバレーボールもある。

日本のバレー(特に女子バレー)は昔から強豪だったらしいが、これは選手や監督によって構築された戦略によって支えられた実力だった。

しかし、あるときからデータ分析チームを擁するバレーチームが現れた。バレーの戦略は、選手の直感や監督の目利きではなく、データ分析チームによる提案によって構築されるようになった。

このようなデータバレー化が進んでからは、日本の女子バレーはそこまで強豪ではなくなった。戦略で差がつかなくなってくると、純粋な技術や体格による差が大きくなってくるからだ。

したがって、オリンピックによって何らかの技術発展があるという側面は否めない。

で、結局オリンピックって必要なの?

必要かどうかでいえばあったほうがいいのかもしれないし、ないほうがいいと言ってもいまさら撤廃できるようなものではないだろう。

ただし、招致する必要はまるでないように思える。

新興国や途上国で開催して、建設会社や警備会社の進出を助けたほうがましではないかと思える。場合によっては鉄道や上下水道の整備を請け負ってもいいくらいだ。多少過剰なくらいに先進国が支援をして、開催国である新興国や途上国の発展に手を貸せばいい。

先進国にとっても、GDPはともかくGNIがあがればよいのではないだろうか。

招致回数が多いほうから3か国がアメリカ・フランス・日本であることを考えると、それなりに招致のメリットはあるのだと思うが、私にはあまり見えてこない。

現場監督の過労死とベーシック・インカム

最後に、今回の過労死について少しだけ考え方を書きたい。

電通社員の自殺に関連して、会社に改善を求めるよりも自己防衛をすべきだと書いた。その考えは今も変わらないのだが、今回の過労死については少し状況が違う。

当初の記事では電通という会社を想定していた。つまり、年収を労働時間をともに半減させるような転職先はいくらでもあるということが前提だった。*1

一方で、今回自殺したのは建設会社(の下請けか)の現場監督だそうだ。言い方には気を付けなければならないが、下請けの現場監督であれば転職先はかなり限られている。同業他社か同程度の労働環境の場所しか選べなかった可能性も十分にある。

したがって、電通の自殺と今回の過労死とは区別して考えねばならない。

自己防衛の能力が高い人はまず自己防衛を優先し、安全地帯から会社に改善を要求すればいい。しかし、そうできない労働者もいるのである。そういった労働者は仕組みで守らなくてはならない。

少し失礼かもしれないことをあえて言うが、交渉力のない労働者を保護するのは、小中学生の子供を保護するのと同じように大切なことである。企業に対して交渉力があって、独立する手段も持っているビジネスパーソンを保護するのとはわけが違うのだ。

無数にあるいわゆる「ブラック企業*2」の対策は容易ではない。私に具体的なアイディアがあるわけでもないのだが、ベーシック・インカムという仕組みが、この問題を和らげるのに有効な策の1つなのではないかと考えている。

ベーシック・インカムによってあらゆる従業員が企業に対して交渉力を持てるようになるからだ。「嫌ならやめろ」に対して「嫌なのでやめます」か言いやすくやる。

もっとも、長期的には企業そのものを変えなくてはならないのだが、従業員の防衛能力を高めるほうが中短期的には効果はあるだろう。

*1:年収を維持して転職するのは難しいし、どの会社へでも自由に転職できるとは思わないが、少なくとも選択肢はある程度あったはずだ。

*2:ここでは、従業員が転職という自己防衛手段を選びやすい電通などは含めず、従業員の保護が最優先だと思われる企業のこと。