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アマゾンの自社配送強化でヤマトHDの買収はありえるか?

Amazon.comが自社配送を強化してヤマトHDを買収するとしたら、ヤマトHDが伸びるかもしれない

Amazon.comの物流についての基礎知識

ちょうど今日「ジェフ・ベゾス果てなき野望」を読み終えた。長い本だったので読むのに4日間もかかってしまったが、そのことを書きたいわけではない。

ヤマトHDの行く末を考察する前に、Amazon.comの物流能力について簡単に書いてみる。

Amazon.comは今でこそ世界1位を争うような企業になりつつあるが、創業当初はさほど順調にいっていなかったようである。特に、ドットコム・バブルが崩壊したころの描写はやや悲惨であった。

また、物流網も何もかもかなり試行錯誤して作られている。特に印象的だったのが、物流施設を作り直したというエピソードだ。

Amazon.comはもともともウォルマートの物流網を参考にして作られた。参考にしてというのか、ウォルマートの物流担当者をヘッドハンティングしたうえで最新の物流技術を自社に取り込んだ。確かに取り込んだ時点では最新の物流技術だったのだが、ウォルマートと比べてはるかに多くの商品を扱うAmazon.comの物流施設と比べると、不十分な性能しかもっていなかった。

ウォルマートから最新の物流技術を導入したあとは、Amazon.comがみずから最新の物流技術を作り上げていかなければならなくなったのだ。Amazon.comの物流はもはや他社の「最新技術」よりも進んでいるため、他社から技術を取り込むことが難しくなっている。より正確には、Amazon.comほど多様な商品を膨大に扱う会社はほかにないため、Amazon.comが必要とする物流技術はAmazon.comにしか必要とされない技術である。

ヤマトHDの買収はあり得るのか

Amazon.comが自社配送を強化する場合、大量のトラックとトラックドライバーを抱えるヤマトHDなどの買収があり得るのだろうか。個人的にはあり得ないと考えている。

細かな理由はいくつかあるが、主な理由は次のとおりだ。

  • ヤマトHDの資産も人員も過剰であるから

  • Amazon.comはヤマトに不満がない可能性がある

Amazon.comは将来にわたってトラックのみでの輸送を考えているわけではないはずだ。自動運転車しかりドローンしかり。したがって、ヤマトHDなどの輸送会社が持つトラックなどの資産をすべて引き継ぐと過剰になってしまう。人員にも同じことが言える。買収は非常に高コストな戦略なので、通常の投資活動で解決できる問題に対しては行わないのが普通だ。買収にかかる金額は再調達コストよりも高いことが多く、おおざっぱには「高いお金を出して時間を買う」と理解しておけば大きな間違いにはならない。まして、余剰分を安く処分したりすると相当高い買い物になってしまううえ、組織改革に時間がかかってしまい元も子もない。*1

Amazon.comは倉庫なども外部に委託したり派遣社員を雇ったりしており、正規雇用でどんどん人員拡大をしているわけではない。したがって、ヤマトHDのドライバー全員を正規雇用で引き継ぐようなことはしないだろう。そもそも、配送にいちいちサインがいる文化を引き継ぐ気があるのかもわからない。実際、すでにPrime Nowの配送はサインなどは不要で置き配が行われている。*2

2つ目の点のほうが重要だろう。週刊誌を中心に「ヤマトvsアマゾン」という論調があるが、個人的には、Amazon.comはそもそもヤマトに不満を持っていないのではないかと予想している。Amazon.comの本社のあるアメリカ合衆国では、UPS(United Parcel Service)という非常に交渉力の強い配送業者がある。Amazon.comもまたUPSも利用しているが、ヤマトHDに対して行っているほどボリューム・ディスカウント*3を要求していないのだ。したがって、Amazon.comからすると「ヤマトは思いのほか大きなボリューム・ディスカウントをくれた」くらいに認識しているのではないだろうか。

つまり、Amazon.comはまだまだ値上げ交渉には応じるだろうし、自社配送も短期配達(Prime Now, Amazonフレッシュなど)に限られると思われる。

さらに言えば、現在のAmazon.comは利益の大半をAWSから稼いでいるし、Alexaも順調に成長している。もはや小売部門から利益を上げる必要はそれほどない。いつかあらゆる小売業者が倒産してAmazon.comが真に一強になったときに、商品やPrime会費を値上げをすればいいだけだ。焦る必要はどこにもないし、たとえ利益がゼロであったとしても、AWSやAlexaを売り込むためのブランディングが無料でできているととらえれば全く問題はないだろう。

今後の物流の展開

ヤマトHDの配送の品質は高い。確かにめんどくさそうな顔で配達してくる配送員はいるし、ときには在宅しているのに不在者伝票を入れてくることもあるが、それは些細なことだ。Amazon.comから見ても消費者からみても非常にありがたい会社であるのは間違いない。

ただ、その流れが永遠に続くわけではない。

EC化率はまだまだ低く実店舗の存在感は小さくない。将来的に配送サービスがより活発になるのは目に見えているし、配送技術が進歩するのもまた必然である。自動運転技術もどんどん開発されていくし、宅配ボックスは普及するだろうし、ドローンによる配送もあり得るかもしれない。

Amazon.comはヤマトHDに対していつまで譲歩するのか、Amazon.comがいつから小売で儲けようとしはじめるのか、といった「いつ」の部分こそが注目に値するのではなかろうか。

注釈*4

*1:どうしてもカーブアウトを行わなければならない場合は、当初の交渉の段階から買い手と連携することが多い。いらなくなったから売ろうとしたとしても、いらないものは他社もいらないので投げ売りにしかならない。もっとも、カーブアウト型のM&Aは非常に難易度が高いので、よほど多角化した企業を買収する場合か、独禁法に抵触するような場合などやむを得ないときにしか行わない。

*2:アイスクリームなどを頼んでも置き配になる可能性があり、配送員に「在宅されててよかった。冷凍のものを置き配すると大変なことになるから。」と言われたことがある。おそらく、在宅していなかったら置き配になっていたということなのだろう。

*3:大口の顧客に対する割引のこと。宅配業界なら、大量の商品の配送を頼むほど1個あたりの配送料が安くなるというもの。

*4:一部語弊があったようですので加筆しました(下線部)。ご指摘ありがとうございます。