外資系金融マンの読書ブログ

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出光創業家はなぜ差し止め要求をしているのか

創業家でなくとも、希薄化を歓迎する株主はいない

株式発行(公募増資)という資金調達手段

株式会社(特に上場している株式会社)には公募増資という資金調達手段がある。

簡単に言えば、会社が新たにお札を刷るようなものだ。

株式が分割された会社の所有権であるというのは説明不要だろう。増資とは、いままでは1,000万分の1(1,000万株)に分割していた所有権を、1,200万分の1(1,200万株)に分割したうえで、増えた200万株に対して新しく株主を募るという方法である。

要するに、企業から見ると、何もせずに200万株分の株主が増え、株価×200万株の収入を得られるということになる。*1一方で、既存株主から見ると、何もしていないのに、自分が持つ会社の所有権が保有株式数÷1,000万から保有株式数÷1,200万へと自動的に減少する。

所有権が減少すると、株主総会での議決権(1株1票の多数決)も低下するし、もらえる配当も実質的に減少する(配当総額が一定だとすると1株あたり配当が減少する)。

この低下・現象を「希薄化」と呼ぶのが通例である。会社が増資を行うと議決権や1株あたり利益が希薄化する。

出光の経営陣が反対するということ、反対できるということ

ちなみに、増資は増えた株式をどのような株主が保有するかによって多少呼び方が変わる。取引関係を持つ会社など、既存株主でも新規投資家でもないような企業が新たな株主となるときなどは、第三者割当増資と呼ぶ。既存株主が持ち分を増やす(希薄化するので実質的には増えない可能性も高い)場合は株主割当増資、広く一般の投資家に声をかけるときは公募増資と呼ぶ。

会社の重大な意思決定は当然株主の承認がいる。具体的には株式総会で過半数の株主からの賛成(1株1票で過半数の得票)が必要である。しかし、買収合併などの特に重大な意思決定については、3分の2以上の株主からの賛成が必要だ。

さて、出光の経営陣は昭和シェル石油との合併を検討しているが、この承認が得られそうにない。なぜなら、合併に反対している出光の創業家が約34%の株式を保有しているからだ。つまり、創業家が約34%をすべて使って反対票を投じれば、自動的に3分の2以上の賛成は得られなくなる。

公募増資による買収合併の実現を狙う

創業家と経営陣の対立は進み、すでにコミュニケーションすら取りづらくなっているらしい。したがって、昭和シェルとの合併を実現するためには、創業家の持分を3分の1以下にするしかない。

そうはいっても、創業家に「3%分ほど株式を売ってくれませんか?」などといっても応じるはずがない。交渉に応じて持ち分が3%ほど低下してしまえば、そのほかの株主の賛成によって3分の2以上が合併に賛成してしまうからだ。

そこで、公募増資を行って希薄化をたくらんだのだ。

出光の発行済株式数は1.6億株であるから、創業家が持つ株式を34%だとすると創業家は5,440万株持っていることになる。いま、出光は4,800万株を新たに発行しようとしている。この増資が成功すれば、創業家の議決権が大きく希薄化する。

  • 5,440 / 16,000 = 34.0%
  • 5,440 / (16,000 + 4,800) = 26.2%

創業家の議決権が約26%まで低下すれば、合併に関して3分の2から賛成を得ることも可能になるかもしれないというのが、今の経営陣の考えだろう。

そんなことが許されるのか

これが難しい。創業家は「明らかに創業家の議決権の希薄化を狙ったもの」と主張して裁判所に差し止めを要求している。

一方の経営陣は、企業の成長のために必要不可欠な資金調達であると主張している。確かに、業績が伸び悩んでいる出光にとって大規模な新規投資は必要なものかもしれないから、大義名分があるのだ。

新たに発行する株式を投資家に売りさばくのは、国内は大和証券、海外はJPモルガンらしい。

経営陣および投資銀行は増資実行に尽力するだろうし、創業家は何としてでも阻止するだろう。今後の動向が見ものである。

おまけ、業績と補足

ちなみに、創業家が主張する「創業家の持ち分」には、創業家本人ではなく「公益財団法人出光美術館」などが保有している持ち分もある(約13%)。こういった法人の持ち分をどう扱うかによっても話は変わってくる。

株価とPER

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赤字も多く、純利益で評価しても実態をつかみにくいかもしれない。

営業利益まで赤字であるがEBITDAは割と黒字になっているようだ。ちょっとめんどくさいのでEBITDAのマルチプルのグラフは作らなかったが、事業の特性から言ってもEV/EBITDAなどで評価するのがよいかもしれない。

株価とPBR

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少なくとも自己資本で評価されているわけではなさそうだ。

注釈*2

*1:当然、投資銀行への手数料があったりして、株価×200万株をそのまま入手できるわけではないが

*2:誤字脱字を修正しました。ご指摘くださった方ありがとうございます。